はじめに

お読みいただき、ありがとうございます。

これを書いているのは、主催の岩崎大貴です。ケン・ボーズマン教授でもありませんし、またコーディネート役の浅野千尋でもありません。僕はあくまでいちボイストレーナーであり、音声学に関して単位を収めたり、学位を持っているわけでもありません。

しかしながら、一度、フォルマントに関して、筆を取りたいなと思い、記事を書いています。

というのも、勇気を出して書いた、先日のポストがーー。伸びたんです。ご覧いただけないでしょうか。

「フォルマント」というものが、いかに理解が難しい概念か、ということを僕は少しながら知っています。この2年ほど、自分の生徒たちにその概念を伝えるのに四苦八苦してきたからです。

生徒側の気持ちもわかるのです。私自身、ボイストレーニング界で少しずつフォルマントの話が広まりつつある中、知人からフォルマントの話を聞いても、一体それが何に役立つのか、倍音のピークといっても、だからそれがなんなのか、どうにも理解が進まなかったからです。

自分だったらどこでつまづくか、どこで迷うのか、何を知っていれば理解モチベーションが高まるのか。そういう自問自答をしながら、2年間を過ごし、またその結果が、上記のポストになります。

結果が、100RT。フォルマントという言葉の説明でリアクションがあったことに自分自身で大喜びしてしましました。もしかして、この説明の方向ならば、いけるのかもしれないと、ワクワクしてしまうのです。この実用性が日本の音声、歌唱指導業界に広まれば、日本の音楽は変わるのではないか、とすら、思っています。

今日のこの記事は、上記のポストのリライトになります。内容には、元来補足が必要な場面も多くあるでしょう。が、一旦、フォルマントを知らない人が、もしくは理解が如何にもこうにもできない人に向けて、書きたいと思います。

ですから、言葉足らずになる場面がありえます。言い過ぎなところ、言い足りないところが出てくるかと思います。それらは補足欄で補足を足していきたいと考えています。私の理解不足、勉強不足ゆえに、誤解を招く文章も含まれるかもしれません。

それは、音声教育学の修士号を持っている浅野千尋、そしてフォルマントに明るい佐々木洋平たちにサポートをしてもらいながら、記事を更新していきたいと思います。

それではみなさま。

長い文章ではありません。10分ほどで、構いません。10分を、この記事を読むのにいただけないでしょうか。

アプリでまず、少し遊んでみませんか。

まず、アプリを作ったので、よければ遊んでみて下さい。

遊べフォルマントくん

「遊べフォルマントくん」というアプリを弊社で作りました。

再生ボタンを押すと、紫の山がたくさん並んでいる画面になるはずです。その下には「F1くん」「F2くん」というものが配置されているはずです。

遊べフォルマントくんのアプリ画面。倍音の山とF1くん、F2くんが表示されている。
「遊べフォルマントくん」の画面。紫の山が倍音、下のキャラクターがF1くん・F2くん。

音を出して、感覚的に、F1くん、F2くんを動かしてみて欲しいんです。指でタップすると動くはずです。どうでしょうか、「音色」はどのように変化しますか?自由に遊んでみましょう。

自由に遊んだあとは、やってみて欲しいことがいくつかあります。

TRY THIS
  1. F1くん、F2くんを動かす

    アプリで音を出して、まずはF1くん、F2くんを動かしてみる。特定の紫の山に接近させて、そこで発声してみてください。彼らの目がハートになります。

  2. こえの高さを変える

    F1くん、F2くんの目がハートになる高さに設定したら、その後、「こえの高さ」を変えてみてください。そうすると、F1くんとF2くんが紫の山とはズレて、目がハートじゃなくなりますよね。その時、音色はどう変わりますか?

  3. フープを選んで動かす

    「フープ」を選んで「こえの高さ」を動かしてみてください。F1くんが「こえの高さ」と一緒に、自動的に動くはずです。

  4. フープを外して比べる

    「フープ」をもう一度タップして、フープを外してください。そのまま「こえの高さ」をさっきと同じように動かしてみましょう。さっきとはどう音色が違うと感じますか。

どうでしょうか。F1くん、F2くんが動くと、音色が変化すると感じたり、母音が変化すると感じたのではないでしょうか。

紫の山が、「倍音」。倍音は、特別なものではない。誰の声にもある

さて、まずこの紫の山がなんなのか。左から「基音(きおん)」といい、そこから順番に第2倍音、第3倍音...といいます。

倍音の山に基音、第2倍音、第3倍音などの注釈が書かれている図。
左から基音、第2倍音、第3倍音...と並んでいく。倍音は誰の声にも含まれる。

前提。倍音は誰の、どんな声にもある

前提として、誰の声にも、どんな声にも、倍音が含まれています。ここを勘違いしていると、フォルマントの理解までは到達することができません。

よく、「私、倍音がないって言われるんです」などと相談してくる新規の生徒がいますが、これは「あなたには倍音がないのよ」など生徒に言ってしまう先生方もいらっしゃることも原因のようです。これは、科学的にはありえないのであって、何か違うことを伝えたかったということになります。

倍音がない、というより、「先生が“倍音がある”と感じる声の、条件を満たしていなかった」といったところでしょうか。

どの倍音が強調されているかで音色が変わる

「第2倍音、第3倍音は何が違うのですか」とも聞かれますが、音の高さが異なります。さっきの画面で言うと、右に行けば行くほど、高い音ということになります。

  • 第2倍音基音からオクターブ上
  • 第3倍音オクターブ+5度上
  • 第4倍音基音から2オクターブ上
※倍音は、基音の周波数の整数倍として並びます。たとえば基音が220Hzなら、第2倍音は440Hz、第3倍音は660Hz、第4倍音は880Hz、という関係になります。

このように、基音との音程、つまり音と音の距離は決まっています。そして、基音が変わればこの倍音群も高さが一緒に変わります。

「こえの高さ」ボタンで高さを調整すると、一番左の基音だけじゃなくて倍音もセットで動きますよね。

こえの高さを変えると、基音と倍音群が一緒に動く。

そして、この、どの倍音が強調されているのか。これが音色に関わっている、ということです。F1くんとF2くんを動かしていると、「母音が変化した」と感じる方もいると思います。

そして、そのどの倍音を強調させるかを調整することができるのが、フォルマントという概念です。つまり、そう、F1くんと、F2くんです。特にこれらのフォルマントたちは母音知覚に大きく関与しています。

倍音の山とF1くん、F2くんが表示されている横長の図。
F1くん、F2くんの位置によって、どの倍音が強調されるかが変わる。

フォルマントを動かして、倍音と出会わせる。倍音を強調する!

アプリは、フォルマントを可視化および、キャラクター化しています。実際にはこういうキャラクターが喉の中にいたりはしません。

歌唱時、フォルマントは、自分の意思で歌手にコントロールされます。共鳴腔のサイズ調整によって変化します。唇、開口、舌、咽頭、喉頭の高さ。さまざまな部位が関与します。個人的には、姿勢すら関与すると思っています。

F1くんを基音や倍音へ近づけると、音色や母音感が変わる。

まず最初に、F1くんを基音のところに持っていきます。そうするとなんだか、裏声感が強まった感じがします。「う」に近い母音に聞こえるかもしれません。

第2倍音のところにいくと、母音が少し開いて、「あ」に接近した感じがしますし、やや地声のような音色に聞こえます。

F1くんの位置によって、声の開き方や地声感の印象が変わる。

F2くんを高めに設定して、より高い倍音を強調させると、「い」や「え」のような響きを帯びてくるのがわかると思います。

F2くんを高めに設定すると、「い」「え」のような響きが見えてくる。

F1くんもF2くんも、歌手ならば自分の意識下で制御し、自由に設定することができます。テクニックですね。

またここでわかるのは、歌手はこうしてF1、F2を調整することによって複数の倍音を、意識して、もしくは無意識の中で「これが欲しい音だ」という意図の中でコントロールしていることになります。すごいことです。

母音は無限?その中から母音を調整、選択するのが歌手のワザ

アンミカさんが以前、「白は200色あんねん」と言い、バズったのをご存知でしょうか?

フォルマントが変わることによって母音が変わるんだよ、というと、「ふうん」と言って、あまり興味を示さない人もいます。「母音って大事ですよね、日本語は5つの母音しかないから、英語とか勉強したほうがいいですよね」などもよく聞く感想です。

でも、英語のようにたくさん母音がある、という次元の話ではないんです。音の高さというのは、ピアノの88鍵盤の中にあるだけではありません。音の高さは連続的に存在します。半音は100個に分割することができますし、数という概念で言えば、無限とも考えることができるでしょう。つまり、母音も同じように連続的に存在しています。

アンミカさんの話に戻りますが、歌手の技術と、母音、そしてフォルマントの重要性を説明する時に、冗談めいて、生徒にこういうことがあります。「例えばな、あ母音って200色あんねん」と。

音色を決める要因はF1くん、F2くんだけではなく非常に複雑なようですが、まずこの2つが母音の決定に大きく関与し、その母音は連続的に存在する。そして、それらの母音の調整は「音色」と言って表現されることがある。これが大事なことです。

マイケル・ジャクソンの “Beat It” も、「ビーレーー!」と明らかに母音が変化していますし、ビヨンセの “Listen” も「リッサーン!」と大胆な母音で歌っています。これらは音色の変化ために、大胆な母音変化をさせていると考えます。でも、一般の方でこれに気づく人は多くないかもしれません。「力強い声が出ているな」と感じる人が多いのではないでしょうか?これが歌手の技術なのだなと思わされます。

Michael Jackson Beat It の動画サムネイル WATCH ON YOUTUBE
“Beat It” の該当箇所。母音変化と音色の関係を考える参考として。
Beyonce Listen の動画サムネイル WATCH ON YOUTUBE
“Listen” の該当箇所。大胆な母音変化と音色の関係を考える参考として。

カップリング。倍音とフォルマントのラブストーリー

ちなみに、アプリのUIのお気に入りポイントがあります。倍音とフォルマント君が一致することを「カップリング」と言います。カップリングすると、フォルマント君の顔がハートになります。

このカップリングパターンには複数のパターンがあります。これは、ケン・ボーズマンから、ぜひ学んでください。

倍音とフォルマントが出会う、のようによく冗談混じりで話すのですが、それをイメージしています。F1くんとどの倍音を出会わせるのかで音色は大きく変わります。アプリでも試してみてくださいね。

遊べフォルマントくんを開く

※私は研究者ではなく、ボイストレーナーです。内容には私自身の解釈も含まれるため、不正確な点や表現がある可能性があります。歌手の方にも伝わりやすいよう、専門用語はできるだけ避けて説明しています。お気づきの点や補足があれば、随時追記・更新していきます。